慶應義塾大学の中室牧子教授らは、コロナ禍における経済困窮の子ども達にアンケート調査を実施しています。経済困窮以外の課題を同時に抱える世帯は、実に全体の40.2%にものぼっています。経済困窮に加え、19%が発達障害、7%が身体障害があり、13%が不登校になっています。経済困窮のみの世帯の子どもと、それ以外の課題も抱える子どもの学力や非認知能力を比較すると、経済困窮以外にも重層的に課題を抱える子どもは、問題行動が顕著で、不安感が強く、学力や非認知能力など人的資本の形成でも著しく不利な状況に置かれています。
コロナ禍にあって、不利な状況にある幼少期の子どもの教育や健康に積極的に投資することは重要です。幼少期の教育投資の効果が特に大きいのは、貧困世帯の子どもたちです。貧困の世代間連鎖を食い止めるには、所得の再配分よりも、不利な状況にある子どもの幼少期の生活を改善する事前分配の方が、経済効率が良いとされています。
近年、フィンランドで始まったネウボラという制度を導入する自治体も増えています。妊娠期から就学期にかけての子どもとその母親を対象とした行政支援で、産後ケアや母子保健相談などを実施しています。国でも、子どもに関わる政策を一元的に扱う子ども庁の創設に向けた議論が進んでいます。子ども庁が、保育、教育、福祉の所管横断的な情報共有により、様々な課題を抱える子ども達に対する支援ができるような組織になることが期待されています。
(2021年6月1日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)