75歳以上の後期高齢者にかかる医療費は、2020年度の予算ベースで18兆円にのぼっています。10年間で4割増えています。これまでの後期高齢者の窓口負担は原則1割で、現役世代の保険料が大きな財源となっています。後期高齢者医療制度は、患者負担を除く費用を公費(税金)で5割、現役世代の支援金が4割、残り1割を高齢者の保険料でまかなっています。
現役世代の保険料負担は今後さらに増えていきます。75歳以上の人口の伸び率は2022年に4.1%になります。現役世代の支援金は2025年度に8.1兆円と、5年間で1.3兆円増える見通しです。後期高齢者の2割負担を導入しても、2025年度の抑制効果は830億円にとどまります。
少子高齢化が進む中、社会保障制度の持続性を高めるには、能力に応じ負担する仕組みをもっと取り入れる必要があります。負担能力を測る物差しは所得が基準となります。家計の金融資産は約1,948兆円で、このうち半分以上は高齢者が保有しています。所得は少なくても資産を多く持つ人には負担してもらう仕組みを取り入れれば、世代内での支え合いにもなります。
全世代型社会保障改革は、支え手を増やし、年齢に関係なく能力のある人には負担してもらうという2本柱です。後期高齢者医療制度の窓口2割負担導入はこれに沿っていますが、これだけで社会保障の抱える問題が解決できるわけではありません。
社会保障の支え手を増やすのに、少子化対策は欠かせませんが、大人になって財政面で貢献するには時間がかかってしまいます。働く意欲のある高齢者の就労環境整えていくべきです。働く高齢者の年金を減らす在職老齢年金制度は、65~69歳の減額基準を引き上げることも必要です。若くても生活に困っている人は支えないといけません。年齢に関係なく、余裕がある人は支える側に回るといった形にする必要があります。
(2021年6月5日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)