新型コロナウイルスのワクチンで初めて実用化されたメッセンジャーRNA(mRNA)医薬が注目を集めています。がんやエイズウイルス(HIV)などを対象にした新薬を目指し、臨床試験が進められています。病気に関わるたんぱく質を狙ってmRNAを設計できるので、様々な病気で応用が検討されています。
mRNAは、細胞内でDNAの遺伝情報をもとにたんぱく質をつくる際に伝令役となる物質です。伝える遺伝情報に合わせて人工合成することができます。新型コロナワクチンでは、ウイルスのたんぱく質をつくるmRNAを体内に投与します。ウイルスのたんぱく質ができ、それを免疫が記憶することで、ウイルスが侵入した時に感染防御などに役立ちます。がん治療では、がんの目印となる物質をつくるmRNAを投与します。
mRNA医薬の利点に、一人ひとりの遺伝情報のわずかな違いに合わせて人工合成できる点があります。患者がそれぞれに最適なmRNAをつくり、効果を高める個別化医療を実現することができます。2021年の市場規模は、約100億ドル(1兆900億円)に達するとされています。現状では新型コロナのワクチンしか実用化されていませんが、がんやHIVなどに広がれば、大きく成長する可能性があります。
(2021年6月15日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)