新型コロナ感染症は、重症化すると急速に呼吸状態が悪化し、人工呼吸器やECMOによる治療が必要になります。ただし、こうした治療は体への負担が大きく、体力が衰えている高齢者らには使えない場合もあります。東京医科歯科大学らの研究グループは、腸呼吸が実現すれば、人工呼吸などの治療への移行を防いだり、人工呼吸やECMOの補助をしたりして呼吸不全の症状緩和に使える可能性があるとしています。
研究グループは、マウスやブタの直腸に酸素ガスや多量の酸素が溶け込んだ液体を入れる方法を試しています。その結果、何もしなければ5分程度で死んでしまう低酸素の環境でマウスの直腸に酸素ガスを入れた場合、生存時間が2倍程度に延びました。腸の粘膜をはがした状態にすると、1時間以上生存し、呼吸不全の状態は改善されました。血中の酸素量も大幅に増加しました。
酸素が溶け込んだ液体を入れた場合も、呼吸不全が改善され、ブタでも同様の効果が確認されました。肝臓や脾臓、腸管などに重い合併症や副作用は見られませんでした。将来的には、酸素が溶け込んだ液体を患者に浣腸する治療法の開発を目指しています。コロナに関わらず、様々な肺の病気では、人工呼吸かECMOくらいしかありませんでしたが、選択肢が増えると期待されています。
毒性がなく酸素を多く溶かせるパーフルオロカーボンという液体について、医療機器や医薬品としての承認を受けるため、1~2年以内に臨床試験(治験)を始めたいとしています。新型コロナなどで重症化して呼吸不全となった患者が腸呼吸で酸素を取り込むことができれば、大きなメリットになります。実用化に向けた使用方法は、最大の投与として1日6回、1週間程度を想定しています。
(2021年6月20日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)