生命科学の分野で強い影響力を持つ国際幹細胞学会は、5月に指針を改定し、14日を超える体外培養を解禁しました。ただし、無条件に認めるわけではなく、科学や倫理の専門的な評価、承認を受けることとしています。ヒトの胚の培養を14日までとするルールは、40年ほど前に提唱され、英国などでは法律で、日本では国の指針で規定されています。今後は各国が規制をどう見直すかが焦点になります。
受精卵は細胞分裂を繰り返し、細胞の数が増えます。その決定的な変化は、14日頃に起きる原腸陥入という現象がきっかけになります。細胞は外胚葉、中胚葉、内胚葉にわかれ、将来、神経、筋肉、消化器といった体のどの部分になるかの分岐点を迎えます。細胞の分化というレベルで、大きく違う段階に入ります。
胚の重要な変化は14日以降に起きるため、研究者にとっては非常に魅力の強い領域で、この部分の研究が進めば、ヒトの体が生じる仕組みの理解が深まり、不妊や流産、病気の治療につながる可能性もあります。ヒトの胚は、これまで生命の萌芽として扱われ、簡単には研究に使えませんでした。受精卵を必要とせずヒトの胚を人工的につくることができれば研究しやすくなります。新指針では、こうした技術でつくられたヒトの胚の培養についても、研究に必要な最小の期間に限るとしています。
新しい指針では、各国の学会や研究資金を配る機関が、市民と対話を進め、実際に14日を超える培養を進めるにせよ、厳しい審査と継続的な監視も求めています。国際幹細胞学会は、指針を世界に押し付ける立場にないため、日本でもどう考えるのか議論するべきです。14日より長く培養できることが、人類の福祉に役立つことを理解してもらいながら、研究を進めることが必要です。
(2021年6月22日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)