選択的夫婦別姓がどうして認められないのか

1996年に法制審議会が、結婚後も夫婦が元の姓を望めば使えるという選択的夫婦別姓を盛り込んだ民法改正案を答申しています。しかし最高裁が出した2015年と2021年6月の判決は、いずれも同姓を定めた現行制度は合憲としていますが、夫婦別姓の問題は国会で制度について議論されるべきだと指摘しています。
一方、2020年に閣議決定した第5次男女共同参画基本計画では、一部自民党議員の反対で、選択的夫婦別氏という文言が削除されました。家族の絆や一体感が不安定になる、子の氏の安定性が損なわれる、旧姓の通称利用を拡大すべきだといった理由で、夫婦同姓を支持する意見には根強いものがあります。
様々な世論調査では、選択的夫婦別姓への反対が賛成を上回ってきています。通称として旧姓を利用すればいいという意見があります。例えば学会で海外に行くときにパスポート名と通称が違って、同一人物と証明するのが困難という話もあります。海外では併記の国は少なく、説明を求められることも出てきます。制度としての夫婦別姓を望む人は増えています。海外で夫婦別姓を認めない国は、日本以外に見当たりません。国によっては同姓、別姓、ミドルネームのように夫婦の姓を結合して使う結合姓、新しく姓を作ってもいい国もあります。日本の場合、96%が婚姻の際に夫姓を選んでいることは問題だとして、国連はこれまで3回是正勧告しています。現在は男女とも婚姻の際にキャリアや信用、人脈、資産を積んでいます。改姓に伴う負担、コスト、手間が大きすぎることを思うのは、多くは改姓を強いられている女性だと思います。
少子化で一人っ子の多い時代となり、婚姻によって実家の名前は次々と消滅していきます。家族や先祖を大切に思い、実家の姓を守りたい一人っ子同士が結婚できないという問題は特に地方で深刻です。別姓を通すため、事実婚を選ぶカップルも少なくありません。選択的夫婦別姓は、文字通り選択ですから、夫婦同姓を望む人は何も変わりません。ただ別姓を望む人も多いので、選べるようにできないかというのが今の議論です。この理屈が反対論者にどうして解ってもらえないのか理解に苦しみます。夫婦同姓に固執する人々は、選択的夫婦別姓が認められたら、ほとんどのカップルが別姓を選択し、自分たちがマイノリティーになることを恐れているのかもしれません。

(2021年7月19日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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