加速化する少子化を憶う

新型コロナウイルス禍により少子化が一層加速しています。2020年の出生数は84.1万人と戦後最少を更新し、2021年は80万人を割るとされています。合計特殊出生率は2005年に1.26を記録した後、若干ではありますが改善傾向に転じ、2015年には1.45まで回復しました。しかし、2020年には再び1.34に低下し、出生数も2015年からの5年間で約16.5万人減少しています。20歳代後半女性の出生率の落ち込みと30歳代の女性人口の減少が出生数の減少に大きく影響しています。
少子化の要因については、晩婚化など結婚に関する要因やワーク・ライフ・バランスとこれに伴う女性への両立支援の不足、若者の就業環境の不安定化などが考えられてきました。とりわけ安定した就業や豊かな経済生活などの将来への期待は、結婚や子どもを持つことを促すと考えられます。しかし将来の経済成長への期待は乏しく、不安定な働き方の増加など若者に将来不安を抱かせる現状では、新たな家族形成への意欲がわくはずはありません。そこに追い打ちをかけたコロナ禍による不安が少子化を加速させたと思われます。
少子化の加速による経済社会への影響として、まず、若年層比率の相対的低下が技術進歩などの遅れをもたらし生産性を低下させ、経済成長の足かせになる可能性があります。さらに、社会保障のみならず税制を含めた若年世代の負担がさらに増します。地域的な人口減少・高齢化の偏在化はさらに顕著になり、これらの影響は出生率のわずかな差で長期にわたり深刻化させてしまいます。なぜなら低出生率による少ない若年人口がさらに少ない若年人口を再生産するという負の連鎖を導きます。
1994年に策定された子育て支援総合計画であるエンゼルプラン以降、多くの少子化対策が実施され、内容も規模も手厚くなってきています。実際、児童手当の対象児童の範囲の拡大や保育サービスの質的拡充、育児休業手当の増額など少子化対策は前進してきています。しかし、少子化対策により人口減のスピードを緩めることはできても、人口減のトレンドを止めることは困難です。
少子化の背景には若い世代が安心して家族形成をできる環境が整っていない多くの課題があります。将来への漠然とした不安、非正規雇用の増加などに伴う不安定な生活、両立支援に消極的な保守的な考え方や組織体質、妊婦や幼子を迷惑と感じさせる社会的な風潮などが積み重なり、子どもを持つことをためらわせる社会状況をもたらしています。多様性を認める社会でないことが、わが国の出生率の低さに表れています。社会全体の意識や行動が変わっていかなければ、日本は少子化の罠から抜け出すことはできません。

(吉村 やすのり)

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