人口学者の間では、合計特殊出生率1.5を境に、少子化が比較的緩やかな国と非常に厳しい国に分けられており、それぞれ緩少子化国、超少子化国と呼んでいます。超少子化に陥る分水嶺とされる出生率1.5を長く下回った後に、回復した国はこれまで見られていません。子どもが少ないのが当たり前の社会になり、脱少子化が困難な低出生率の罠に陥ってしまいます。1.34の日本もまさに直面しています。
人口学者が指摘するのは、女性の教育と社会進出の結果としています。男女格差が縮小するのは社会にとって大きな前進ですが、女性にばかり育児の負担がかかる環境が変わらないと、働きながら望むように子どもを産み育てられません。
少子化対策の優等生と言われてきたフランスも、ここ数年は出生率が下がりつつありますが、それでも1.8台を維持しています。子育て支援などの家族関係社会支出は、国内総生産(GDP)比で2.9%と日本の約2倍です。仏は家族のあり方も大きく変え、1999年に事実婚制度であるPACSを導入しました。2019年に仏で生まれた子の6割が婚外子です。
安心して子育てができる社会をつくるには、一定の出生率の維持が欠かせません。社会全体の生産性を上げなければ、経済や社会保障は縮小し、少子化が一段と加速する悪循環に陥りかねません。現在の少子化は、小手先の政策では歯止めがかかりません。不妊治療の保険適用などは少子化対策と言えません。わが国も少子化対策を国家百年の計として取り組まなければなりません。
婚姻や血縁などによる家族の定義を民法から削除し、事実婚カップルらも家族と認めるなど、多様性を認める社会へ変貌を遂げなければなりません。制度を変えても、社会に根付くには時間がかかります。これまでの社会観、家族観を見直すべき時期に来ています。
(2021年8月25日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)