日銀が、2001年に金融の量的緩和を初めて導入してから20年が経ちました。それでも年間ベースで物価上昇率が2%を超えたのは、1991年が最後です。企業も消費者も、過去のデフレの状況に引きずられる傾向があります。賃金上昇と物価上昇の好循環が失われてしまっています。
経済協力開発機構(OECD)によれば、過去20年間で米国の名目平均年収は約8割、ドイツやフランスは約5割増えていますが、日本は逆に5%減少しています。日本はバブル崩壊後も雇用維持を優先する一方、賃下げなどで人件費を圧縮してきました。物価も賃金も上向かないとの将来予測が定着し、企業と家計の心理が萎縮してしまっています。
大規模緩和の効果もあって、為替相場は2013年春の1ドル=90円台から、110円前後へと円安が進んでいます。通貨安は短期的には外需を取り込むプラス効果がありますが、長引けば企業が高付加価値産業へのシフトを怠って、中長期的には国の競争力を弱めてしまいます。円安により、輸出の数量を増やして成長率を押し上げる効果は弱くなっています。
(2021年9月9日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)