酸素の薄い高地でのトレーニングは、持久力を高めるだけでなく、筋力を増大させる効果があります。人間の体は低酸素下では、赤血球を増やして全身に酸素を多く運ぼうとします。このため、低酸素の環境に体が順応すると、心肺機能が高まります。また、筋肉の増加を促す物質の分泌も進み、筋力が増大します。
低酸素状態になると、主に腎臓で作られるホルモンであるエリスロポエチン(EPO)が増え、骨髄にある造血細胞で赤血球が作られて酸素の運搬能力が高まります。米ジョンズ・ホプキンス大学のグレッグ・セメンザ教授らにより、EPOを作る遺伝子を活性化するたんぱく質である低酸素誘導因子(HIF)が発見されました。HIFは酸素があればすぐに分解されますが、低酸素下だと分解されずに残るため、EPOの遺伝子が活性化されてEPOが増えることになります。セメンザ教授ら米英の研究者3人は、この業績で2019年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。
EPOが骨髄の造血細胞に作用し、赤血球が作られ全身に酸素を運ぶ能力が増し、持久力の向上が期待されます。これまでは低酸素状態である高地トレーニングが主流でしたが、低酸素状態を作り出せる室内スタジオも、全国のジムなどに普及し始めています。本格的な高地トレーニングに比べると、持久力向上などの効果は限定的ですが、スポーツ愛好者の利用が増えています。低酸素下の運動は、一般の人の健康増進にも有効だと考えられます。
(2021年9月14日 読売新聞)
(吉村 やすのり)