現在、分子を撮影するクライオ電子顕微鏡は、原子レベルの解像度に達するようになっています。クライオ電子顕微鏡は、たんぱく質などの試料を急速に凍らせて、電子線を当てて撮影し、その構造を調べる装置です。試料を凍らせることで、電子線による試料の破壊を防ぎ、生体内に近い状態を保てます。
近年、クライオ電子顕微鏡は、強みの抗体医薬や低分子薬、さらに次世代薬として位置付ける中分子薬の開発に利用されています。中分子薬が標的にするたんぱく質は、抗体医薬などと比べて結晶にするのが難しいものが多く、クライオ電子顕微鏡で構造を詳細に把握できれば、薬の分子設計が精緻になり、成功率が高まります。
たんぱく質は、20種類あるアミノ酸が数十から多いものでは1,000以上も鎖のようにつながってできています。これが折りたたまれて、複雑な立体構造を形作っています。このクライオ電子顕微鏡により、たんぱく質の解析が進んでいます。今では凍らせた試料を入れれば、自動で撮影と立体構造の解析などもできるようになっています。
(2021年10月15日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)