特別支援教育を必要とする子どもは増加しています。特別支援学校は、今年5月時点で全国に1,160校あります。視覚障害、聴覚障害、知的障害、肢体不自由、病弱の5種類の障害に対応した教育を手がけています。近年、特別支援学校で学ぶ子どもが増加し、校舎増築などの対応が追いついていません。全国の公立特別支援学校の不足教室数は、2019年5月時点で3,162教室にも達しています。
特別支援学校以外の場で、特別支援教育を受ける子どもも増加しています。小中学校に置かれる特別支援学級や、通常の学級に在籍しながら、週1~8時間別の場で障害に応じた指導を受ける通級をする子どもたちです。小中学校段階に限ると、特別支援教育を受ける児童生徒は、2019年度で全体の5.0%を占めています。障害の種類別では、知的障害や自閉症、発達障害などの増加が目立っています。
特別支援教育は、支援が必要な子どもがいる全ての学校で行うものだとし、知的な遅れのない発達障害にも対象を広げています。一定の障害のある子は、原則特別支援学校に入る仕組みから、本人や保護者の意見も踏まえて総合的に判断する方式に変わりました。保護者がより適切な支援を受けることに価値を見出し、特別支援学校などを積極的に選び取る例もみられるようになってきています。
日本は2007年に障害者権利条約に署名し、同条約に基づくインクルーシブ教育システムの実現を目指しています。インクルーシブ教育は、1990年代初頭に欧米で生まれた理念であり、その本質は学校改革を通じた社会改革にあります。人種や宗教・民族、文化的背景などの違いを超えて、誰もが平等に参加できる社会の実現が最終目標です。日本もまた、共生社会の実現という最終的なゴールに向けた教育のあり方について、国民的な議論を深めていく必要があります。
(2021年10月19日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)