国立社会保障・人口問題研究所によれば、日本が子育て世代の支援に充てた予算規模は、2019年度の対GDP比1.73%です。近年、出生率が一時2.0前後に回復したフランスは2.88%です。近年は出生率が1.5台で推移するドイツは、2.39%となっています。
年金や医療、介護の制度は、いずれも現役世代の保険料が重要な財源となり、世代間で支え合っています。子どもがいない人も、社会保障制度を介して次の現役世代に支えてもらうことになります。子どもがいなくなったら、世代間の支え合いを維持できません。子育て支援の政策コストは、みんなで負担すべきです。
政府が少子化への危機感を強めたのは、1989年の出生率が1.57にまで下がったのがきっかけです。1994年に、本格的な対策エンゼルプランをまとめました。当初は保育所の整備などが中心で、後から仕事と育児の両立支援を加えています。これまでの30年近くの対策について、実際は正社員同士の共働きを応援する政策が中心でした。
2015年に安倍首相は、経済政策アベノミクスの第2ステージで、少子化対策に取り組むと表明し、希望出生率1.8を目標に据えました。2019年10月に3~5歳の幼児教育が無償化され、2020年4月から年収590万円未満の世帯を対象に、私立高校の授業料の支援額を引き上げました。それでも出生率は下がり、2020年は1.34となり、掲げた目標がさらに遠のいてしまいました。今後は女性に偏りがちな育児・家事の負担軽減という政策の柱をさらに加えるべきです。
(2021年10月23日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)