体の損傷などの明らかな原因がなくても痛みが長引く場合があります。脳の神経回路の変化が影響しており、国際疼痛学会が第3の痛みのしくみとして提唱しています。日本疼痛学会など痛覚変調性疼痛と呼ぶことを決めています。
従来より、痛みの発生は二つのタイプがあるとされてきました。一つは、けがや炎症で組織が傷つき、痛みの信号が出て起きる侵害受容性疼痛です。もう一つは、手術や事故、脳卒中などで神経が損傷して起きる神経障害性疼痛です。しかし、どちらにも当てはまらない痛みに苦しむ人は多く、痛む部位を調べても原因となるような異常は見つからず、医療の中であいまいな位置づけになってきました。
国際疼痛学会は、2017年に様々な要因で脊髄から脳にかけた痛みを生み出す神経回路が変化し、痛みが生じたり、痛みに過敏になったりするというしくみを提唱しました。この痛みは、痛みへの恐怖、不安、怒りやストレスといった社会心理的な要因が大きく関係します。それらの影響で、神経回路が変化し、痛みを長引かせ、悪化させるとみられています。
ストレスや心理的影響など様々なきっかけで脳の働きが変わり、脳が痛みをつくることがあります。痛覚変調性疼痛の例に、全身に痛みが生じる線維筋痛症、お腹の痛みや不調が続く過敏性腸症候群、腰、膀胱、骨盤の原因不明の慢性疼痛などを挙げられます。痛みが単独で出るよりは、疲労や睡眠障害、認知機能障害、光や音などの刺激への過敏を伴うことが多いとされています。HPVワクチン接種後にみられる痛みも、この痛覚変調性疼痛なのかもしれません。
(2021年11月8日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)