毎日、生理中の女性は世界中に約8億人いて、うち約5億人が衛生的な環境で生理を迎えられないでいるといいます。人間としての尊厳を脅かされかねない女性特有の負担を、社会全体で解消していくことは、ジェンダー平等に近づく道でもあります。生理の貧困の根本は人権問題です。衛生的に生理を迎えられる環境の確保は、女性の基本的人権として守られるべきです。
宗教や慣習などに基づいて、生理をタブー視する価値観は根強く残っています。日本でも、月経禁忌の起源は平安時代に遡ります。こうした社会の状況が、悩みを抱えた女性が声をあげづらい状況につながります。政治の現場に女性が少ないことも政策課題としての提起を難しくしています。生理の貧困の問題はかねてからありましたが、コロナ禍による経済の悪化で、より一層世界共通の課題として浮き彫りになってきました。途上国にとどまらず、国内格差が広がった先進国でも、同じ状況にある女性たちが珍しくありません。
生理を女性の尊厳に関わる課題として捉え、経済的な負担を減らそうとする取り組みは各国で進んでいます。昨年に生理用品の無償提供を決めた英スコットランド議会の動きは象徴的です。米カリフォルニア州は、生理用品の入手は基本的な人権だとする新法を制定し、州内の学校での配布を始めています。世界の女性が安心して生理を過ごすことができれば、教育や仕事の機会を失うこともなく、経済状況の好転にもつながります。社会全体の課題として目を向けるべきです。
(2021年11月14日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)