国内で新型コロナウイルスワクチンの臨床試験が進んでいます。既に承認されたmRNAワクチンなどとは異なる仕組みのものが多くなっています。自己増殖型mRNAと呼ばれるタイプのワクチンは、投与量が従来のmRNAワクチンの10分の1から100分の1程度で済むとされています。このワクチンは遺伝情報となるmRNAという物質を投与し、体内でウイルスのたんぱく質の一部を作らせます。これを免疫を担う細胞が記憶し、ウイルスが侵入した際に攻撃します。ここまでは米ファイザーなどのmRNAワクチンの仕組みと同じです。
自己増殖型では、mRNAを改良して、mRNA自体を増やす働きをするたんぱく質も作るようにしています。これにより、少ない投与量でもウイルスのたんぱく質は十分に体内にでき、高い効果が得られると期待されています。mRNAは数日間で体内から消えることが動物実験で確認されています。そのため副作用が減ると期待されるほか、必要な量のワクチンを短期間で製造でき、変異ウイルスが登場した際に、対応するワクチンを開発して早期に供給できる可能性があります。
別のタイプのワクチンはVLPと呼ばれるものです。VLPとはウイルスの構造を模した微粒子のことで、ウイルスの遺伝情報を含んでおらず、人の体内で増える恐れがありません。既にヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンなどで実用化されているタイプです。VLPの製造に植物のタバコの仲間を使い、新型コロナウイルスの遺伝情報の一部を組み込んだ細菌を葉に感染させると、葉の細胞内にVLPができます。これを精製してワクチンに使っています。この植物は成長が早く、5~8週間ほどでワクチンを製造でき、しかも低コストです。ワクチンを自国で開発し生産できれば、安定供給につながります。経済安全保障や外交の面でも重要です。
(2021年11月22日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)