新型コロナウイルスは、体内に入ると細胞内で急激に増殖します。症状が進行する頃には、ウイルスの量は減り始めますが、免疫が暴走して過剰な炎症反応が起きると重症化してしまいます。飲み薬で感染初期にウイルスの増殖を抑え、重症化を防ぐことが期待されています。新型コロナウイルスの飲み薬の実用化に向けた動きが進んでいます。
米製薬大手メルクの治療薬モルヌピラビルが英国で承認されました。日本政府は、160万人分の供給契約を結び、ワクチンに続く対策の切り札と期待しています。ウイルスの増殖を抑える治療薬や候補薬には、大きく3つのタイプがあり、実用化が進んで供給体制が整えば、コロナ禍の収束に役立つと期待されています。モルヌピラビルのように、新型コロナウイルの増殖を抑える薬には、大きく分けて3つの仕組みがあります。
1つ目は人の細胞へのウイルスの侵入を防ぐ薬です。承認されている抗体医薬のソトロビマブやカシリビマブ・イムデビマブです。しかし、これらは点滴薬です。2つ目は、ウイルスが増殖する際に欠かせない遺伝情報RNAの複製を邪魔する薬です。モルヌピラビルはこの一つで、薬の成分が体内でRNAをつくる物質に似た構造になり、ウイルスが増殖時に誤ってRNAの複製に使うと複製が失敗する仕組みです。
3つ目の仕組みは、ウイルスに欠かせないたんぱく質の合成を阻害する薬です。ウイルスは、RNAをもとに自身のたんぱく質を人の細胞につくらせます。このたんぱく質をつくらせなければウイルスの増殖を抑えられます。米ファイザーや塩野義製薬がそれを開発しています。
抗体医薬は、製造に特殊な設備が必要で量産が難しいとされています。一方、飲み薬は化学合成できるので既存の工場でも量産ができます。複数の飲み薬が実用化されれば、供給体制が整いやすくなり、医療機関の負担軽減につながると期待されています。
(2021年11月29日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)