コロナ禍における医療情報ネットワークの意義

今回の新型コロナパンデミックにおいて、有事における医療情報共有の重要性が再認識されています。情報通信技術を活用して地域の保健所や医療・介護施設などの多種多様なステークホルダー間で、患者の基本情報や処方・検査・画像データを含む電子カルテなどの医療情報を共有する医療情報連携ネットワークの構築です。
連携ネットワークの導入には、ステークホルダー間での人的交流や情報共有によるコミュニケーションが深まることで、切れ目のない医療や介護サービスの提供につながる効果がみられます。世論は政策の実効性の見える化、つまりデータに基づく検証の実施を強く求めています。
今回のコロナ禍での医療情報連携ネットワークが、医療提供体制やその成果に及ぼす影響について、早稲田大学の野口晴子教授が検討しています。連携ネットワークが全県単位で運用されている26県と、それ以外の都道府県について比較しています。医療供給体制に関しては、連携ネットワークが構築されている県の方が、人口10万人当たりのコロナ対応病床数が5.4床多く確保されています。また、ワクチン2回接種率は2.2ポイント高く、県内での通常医療については、通院に制限ありと回答した病院の割合が1.8ポイント程度低い傾向にあります。
医療供給体制にしてはネットワークの効果は著明ではありませんが、アウトカム指標としての自宅療養者の割合や死亡者数においては効果がみられています。連携ネットワークの存在が、自宅療養者の割合を20.1ポイントも抑制しています。人口100万人当たりのコロナ累積死亡者数を25.7人少なくしているほか、2020年7月と2021年7月の人口10万人当たりの死亡者数の変化率を1.4ポイント低く抑えています。
連携ネットワークの構築には、自治体も含め多様なステークホルダーが協働・共創しなければなりません。また合意形成には、人的・物的・時間的・金銭的コストも要します。平時に構築された連携ネットワークが、感染症対応のみならずコロナ禍での通常医療を下支えし、患者の死亡率を改善する傾向が見て取れます。新たな変異型であるオミクロン型による感染拡大が危惧されていますが、第6波に備え、連携ネットワークが果たす一定の潜在的な役割については認識しておく必要があります。

(2021年12月1日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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