補助人工心臓の利用と課題

重症心不全の患者に対して、血液の循環を助ける植え込み型補助人工心臓が利用されることがあります。これまでは、心臓移植の候補者につける場合のみ公的医療保険の対象でしたが、5月からは、がん治療歴や高齢などの理由で移植の候補者になれない人にも対象が広がりました。
保険の対象が移植候補者に限られてきたのは、機器が原因で血栓症など命に直結するリスクもあるためです。これまではがん治療直後の人や、65歳未満が望ましいとされる移植の適応年齢を超えた人は事実上の対象外でした。しかし、ポンプの小型化や構造が改善され、最近はさらにリスクの低い機種が登場するようになっています。
バッテリー交換や感染を防ぐための消毒、緊急時の初期対応などは、本人や介助人が行うため、患者と介助人にその能力があると判断される必要があります。補助人工心臓の関連学会協議会が実施基準を定めています。心臓以外の臓器の状態が悪い場合も対象となりません。65歳以上の高齢者らが、条件をクリアするのは簡単ではありません。実施場所も限られています。現在は、東京大学病院や大阪の国立循環器病研究センターなど7施設だけです。
移植候補者への補助人工心臓の植え込みは、この10年ほどで増え、今では年150例ほど行われています。新たに保険適用された、候補者であることを前提としない植え込みは、DT(Destination Therapy:長期在宅治療)と呼ばれ、終末期医療の側面があります。装着にあたっては、最期をどう迎えるかの意思確認も重要です。補助人工心臓の管理ができる施設を増やすなど体制の整備が必要となります。

(2021年12月8日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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