2011年の東京電力福島第一原子力発電所の事故では、大量の放射性物質が周辺に拡散しました。その後の観測から、放射性物質の動きは土地利用によって大きく異なることが分かってきました。都市部など人間活動が盛んな場所では、地中への浸透や除染で減っていきますが、森林ではほとんどが土壌に蓄積したままです。
放射性物質は自然に減少します。放射能が半分になるまでにかかる期間を半減期と呼びますが、例えばセシウム134の半減期は約2年、セシウム137の半減期は約30年です。この他、河川から海に流出するなどして減っていきます。森林に降り注いだセシウムの多くは、雨や落葉とともに土壌に移行しますが、一部は樹木が根から吸い上げて、再び落葉などで土壌に落ちます。
場所によってばらつきは大きいものの、平均放射線量はこの間に自然減衰で63%減少しています。空き地などでは、さらに地中への浸透や除染によって19%減っています。道路では、舗装された路面上の放射性物質が風雨などで移動するため、さらに6%減少していました。土地の利用状況によって放射線量の減り方が異なります。都市部は森林などに比べて減少が早く、同じ都市部でも人間活動が活発なところほど減少しています。
原子力機構の計算によれば、事故4年後の2015年3月には、同原発から北西方向に毎時10マイクロシーベルト以上の場所が細長く広がっていました。しかし、事故32年後の43年3月には、10マイクロシーベルト以上の場所はほとんどなくなる見通しです。避難指示を出したり解除したりする目安は、毎時3.8マイクロシーベルトです。毎時3.8マイクロシーベルト以上のエリアもごく一部になるとみられています。
(2021年12月12日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)