脳などにある神経細胞は、化学物質か電気を介して互いに情報をやりとりしています。しかし、これとは別に、力を用いる第3の新しい情報伝達法が発見されています。神経細胞が接し合うシナプスで、接する片方が相手側を押し、押された側の働き方が変わる現象が起きているとされています。
神経細胞には、木の枝のように枝分かれした何本もの樹状突起があります。この1本1本の枝に、新芽のように突き出たいくつものスパインがあります。スパインは、周辺にある別の神経細胞の一部に、非常に狭い隙間を介して接し、シナプスを形成しています。接する相手側が放出する神経伝達物質を受け止め、その信号を細胞内に伝えています。
繰り返し使われたシナプスではスパインが大きくなって、神経伝達物質に反応しやすくなります。シナプスの隙間は狭いため、スパインが増大すると相手側を押し出すことになります。押された相手側で神経伝達物質が出やすくなります。スパインでは、筋肉で力を生み出すアクチンというたんぱく質が大量につくられています。押す力も筋肉と同等の1㎠あたり500gに達します。押すことによって情報が伝達されることになります。
(2021年12月14日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)