世界の人口問題を考える―Ⅵ

公的年金の限界
戦後の1950年、世界の平均寿命は男性45.4歳、女性48.4歳でした。2060年予測は男性76.2歳、女性80.6歳と30年余り延びると推定されています。そのため、先進国は少子高齢化を背景に受給開始年齢の引き上げや、シニアの就労期間延長へ踏み切っています。米国やドイツは67歳、英国も68歳への引き上げを決めています。
日本を含め先進国の公的年金は、現役世代が引退世代を支える世代間扶養の方式が主流です。高い出生率に支えられ、若い世代の人数が多いうちは問題がありませんでした。しかし、少子化が加速し、高齢世代が多い逆ピラミッド型になると機能不全に陥っています。年金額を維持しようとすると、現役1人あたりの保険料負担がどんどん重くなります。かといって現役世代の負担増をやめれば年金減額につながります。
今後、世界人口が減って経済が長期停滞局面に入れば、物価や金利の上昇圧力はおのずと弱まります。インフレを前提にしてきた世代間扶養のメリットも次第に薄れ、安定的に運用益を稼ぐことにさえ黄信号がともります。世界の少子高齢化社会にあって老後危機克服は各国の共通の課題です。
そのためには、企業年金を共助から自助へと近づけ、将来の年金額を約束する確定給付型から、運用次第で年金額が変わる確定拠出型に移行することも必要になります。人口減の世界の未来図で、世代間で支え合う年金制度に大きく依存するのはもはや危険です。自助への仕組みを強化しつつ、テクノロジーも活用して人々が長くいきいきと働ける環境を作らなければなりません。

(2021年12月6日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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