平均寿命と社会保障

欧米先進国では20世紀前半、経済成長と公衆衛生の発達、医学の進歩により平均寿命は順調に延びました。しかし日本では、戦前ほとんど平均寿命が延びませんでした。明治政府は、当初基礎的な公衆衛生の整備を進めましたが、20世紀に入ってからは軍備の増強に狂奔し、上下水道や医療体制の整備を怠りました。戦前は、社会保障の財源となる社会負担はほとんどなかったため、戦前日本の平均寿命が停滞したままでした。
戦争直後の1947年、日本の平均寿命は男性50歳、女性54歳で、先進国の中で最も短かったのですが、現在では、男性81.6歳、女性87.7歳で、世界有数の長寿国となりました。戦後実現した寿命の延びの背景には、経済成長や医療技術の発達と並び、年金・医療保険など社会保障制度の整備がありました。
資本主義社会で中長期的な格差を抑えるのは、税と社会保障です。年金・医療・介護保険などの制度が持続するのには、言うまでもなく応分の負担がなされなければなりません。戦後日本の税負担を国民所得比でみると、概ね安定した水準にありますが、社会保険料など社会負担率はゼロからスタートし、近年の18.5%まで上昇してきています。
社会負担と税負担の両者を合わせたわが国の国民負担率は44.7%です。欧州主要国の国民負担率は、英国が48.6%、ドイツが55.8%、フランスが68.0%です。一方、直近の65歳以上の高齢化率は、日本は29.1%、ドイツは22.0%、フランスは21.1%、英国は18.8%であり、日本は高齢化のフロントランナーです。
今の国民負担率では社会保障を持続できません。公費でなんとか支えているものの、税収が恒常的に足りず、それが財政赤字に平行移動しています。公債のGDP比は2倍に達しています。負担に関する社会的合意を形成することにかかっています。

(2022年1月4日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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