着床前遺伝学的検査に関する学会見解

日本産科婦人科学会は、体外受精で得られた受精卵の遺伝情報を調べる着床前検査のルールを決めました。臨床研究の結果から流産の回避に役立つと判断しています。実施施設は120~130になるとみられ、普及への一歩となりそうです。これらの検査は着床前遺伝学的検査(Preimplantation Genetic Testing,PGT)と呼ばれています。
学会は臨床研究の手法をもとに検査の基本的な約束事をまとめた見解と、施設認定や実施法、結果説明などを記載した細則を作成し、1月9日の理事会で決定しました。2022年度から運用を開始し、臨床研究は2022年度末まで続け、その後は先進医療の枠組み利用などの可能性を探っています。

PGT-Aは、受精卵を培養して得られる胚の外側の胎盤になる部分に針を刺して細胞を採取し、染色体の本数に異常がないか調べます。1個あたり数万円かかります。異常は遺伝するわけではなくランダムに起きます。臨床研究では、2回以上胚移植したが妊娠しない反復体外受精不成功、2回以上流産を繰り返す反復流産を対象とします。
染色体に異常が見つかった胚は使わないため、結果的に命の選別に当たるとの批判もあります。しかし、これまでも複数の胚を見比べ、主に形の良いものを選んできました。検査により、職人的な勘が先端技術の目に置き換わるとも言えます。性別の判定にもつながる性染色体の情報は開示しません。学会は、PGT-Aの進め方をめぐり、医療従事者だけでなく社会科学者、不妊症患者やメディア関係者などを交えた公開シンポジウムをこれまで2回開いています。そこでの議論や見解案などへのパブリックコメントも実施し、丁寧に実施条件を詰めてきました。
臨床研究の集計によると、PGT-A後に胚を子宮に移植できた件数は全体の約4割で、その約7割で妊娠しています。一般的な体外受精の妊娠率の30%台半ばより高くなっています。流産率は約1割で通常の20%台半ばを下回っています。しかし移植できない胚も多いため、検査で出産の確率が高まるとは必ずしも言い切れません。身体的、肉体的な負担の大きい流産を繰り返し、時間が過ぎていくのを避ける効果はあると言えます。
不妊治療は2022年度から保険適用となりますが、着床前検査が対象外になれば、混合治療とみなされ高額な費用が生じることになります。学会は先進医療として検査部分のみ自費、それ以外の不妊治療は保険診療にするなどを検討中ですが、中央社会保険医療協議会では着床前遺伝学的検査の保険適用は見送ることになりそうです。

(吉村 やすのり)

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