コロナゲノム解析力の南北格差

新型コロナウイルスの遺伝情報の特徴を調べるゲノム解析の国家間の格差が鮮明となってきています。アジアやアフリカからの報告は少なく、欧米の一部からの報告が8割を占めています。新しい変異型オミクロン型でも、PCR検査では把握しにくい派生型が出現するなど、感染拡大の把握には詳細な調査が欠かせません。世界全体の解析能力の底上げが大切です。最も多くデータを登録するのは米国で、世界全体の32%を占めています。次に24%の英国が続いています。感染者数が世界の11%を占めるインドの登録データはわずか1%に過ぎません。先進国よりも低い割合しかゲノム解析をできていません。
オミクロン型は、2021年11月に南アフリカなどで確認されて以降、世界中で爆発的に広まっています。そのオミクロン型の派生型が、米国や英国で確認されています。専門的にはBA.2と呼ばれ、オミクロン型の主流BA.1とは変異の種類が一部異なっています。BA.2はこの遺伝情報の特徴がBA.1とは異なり、デルタ型と同じ検出結果になってしまいます。
ゲノム解析は遺伝情報を詳細に調べられますが、時間やコストがかかります。特定の部位の違いに注目するPCR検査はより簡単に実施できますが、BA.2のように、わずかな違いを持つ新たな変異型の出現を詳細に監視するにはPCR検査では不十分で、ゲノム解析が必要になってきます。派生型を含めてオミクロン型とデルタ型を見分ける特殊なPCR検査を開発するには、ゲノム解析で対象となる変異型の特徴を把握しなければなりません。
ゲノム解析の情報は感染対策に欠かせません。オミクロン型では南アフリカなどの発見の報告を基に、国内への流入や急速な広がりを遅らせるために水際措置が進められました。オミクロン型もこれまでの変異型も、各国の迅速な情報共有がなければ、日本でもっと早く広がっていたと思われます。ゲノム解析によって感染者間のつながりが見え、感染しやすい状況が分かることもあります。様々な変異型が急速な感染拡大を引き起こさないよう、国際的にゲノム解析能力を高められることが必要です。

(2022年1月24日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

カテゴリー: what's new   パーマリンク

コメントは受け付けていません。