異種臓器移植の是非

動物の臓器を患者に移植する異種移植を実施した報告が相次いでいます。今年1月には米国の研究チームが難度の高い心臓移植をしました。患者の体の拒絶反応を抑えるため、多くの遺伝子を改変したブタを使っています。腎臓でも異種移植は進んでいます。2021年9月には、脳死判定された女性に臨床研究としてブタの腎臓を移植し、約2日間機能したことを確かめています。ドナー不足の解消につながると注目を集めていますが、普及には長期的な経過をみて安全性などの課題を確かめる必要があります。
1960年代から、ヒヒやチンパンジーの腎臓や心臓を人に移植する取り組みなどはありました。1984年に先天性心疾患をもつ新生児にヒヒの心臓を移植した際には、20日後に死亡するなど成功していません。原因は拒絶反応です。人にとって動物の臓器は異物なので、患者の体が備える免疫が排除しようと攻撃してしまいます。
この免疫拒絶を克服するためには、遺伝子改変技術が必要になります。遺伝情報の操作に役立つのが、2012年に登場したゲノム編集技術であるクリスパー・キャス9です。たんぱく質を作る遺伝子などを狙い通りに変えることができます。動物のたんぱく質のうち、人が異物を認識する時に目印になる部分を効率的に変えられるようになり、拒絶反応を克服する道が開けました。
移植用の臓器は、慢性的なドナー不足となっています。日本臓器移植ネットワークによれば、1月末時点で全国で約1万5千人が心臓や腎臓などの移植を希望しています。それに対して、2021年に移植を受けた人は約300人に過ぎません。異種移植が安全で効果の高い方法として確立すれば、移植を希望する人を多く救える可能性があります。
しかし、ブタの感染症を引き起こす病原体が患者に感染し、さらに人間同士で感染するリスクが指摘されています。厚生労働省の異種移植に関する指針では、動物が危険な病原体を持たないように閉鎖環境で飼育するなどとしています。今後、異種移植を進める場合、危険性の高い感染症が生まれないか監視することが大切になります。

(2022年2月21日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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