日本医師会の会員数は年々減少し、2021年12月時点で約17万3千人と、全医師数(約32万人)の5割強に過ぎません。1960年代には医師の4分の3が会員となっていました。会員率は1970年代に下がりました。1973年に医学部を空白地帯の15県に新設する一県一医大構想を打ち出し、大幅に増えた医師の多くは会員になりませんでした。病院の勤務医が中心で、会費を払ってまで会員になるメリットを感じなくなったからです。結局、開業医が中心となり、今に至っています。
診療所の経営者7万人あまりは、ほぼ全て病院経営者約5千人の8割が会員になっています。勤務医は約23万人の3分の1しか加入していません。日本医師会は、幹部をほぼ開業医が占めています。労働時間を調整できず、医師会の活動はしにくく、組織運営の中心はどうしても開業医になってしまいます。
郡市区等医師会が土台となって都道府県医師会があり、全国的な医師の団体にするため、都道府県医師会が全て加入する日本医師会ができています。それぞれが連携しつつ独立した組織で、実態として現場に近いほど力が強い逆ピラミッド型の3層構造になっています。他の領域で全国組織が、地方組織を統括するピラミッド型が多いのとは異なっています。日本医師会は、医療現場の要望をくみとって政府や与党に突きつけます。逆に政策的な要請を伝えられても、日本医師会は地元医師会に従うよう命じる権限はありません。医師一人ひとりも地元医師会に従う義務はありません。
勤務医を中心に医師会に入らない医師が増えた今、統率力の衰えは否めません。診療報酬の引き上げなどで政治に影響力を発揮できる源泉だった集票力の低下も鮮明です。コロナ禍で、日本は海外に比べ感染者数が相対的に少ないのに病床が逼迫するなど、医療体制のもろさが浮き彫りになっています。日本医師会が、現場の調整役の機能さえ果たせなかった現実を見つめ直す必要があります。
(2022年3月7日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)