東京慈恵会医科大学の研究グループは、ヒトのiPS細胞から、耳の奥の内耳のオルガノイド(ミニ臓器)を効率よく培養する方法を確立しました。グループは、ヒトのiPS細胞から、まず内耳組織のもととのなる内耳前駆細胞をつくりました。特定の遺伝子を入れるタイミングや量などを検討することで、効率良く培養でき、それを30日ほど培養すると、内耳のオルガノイドになりました。その後、蝸牛の神経細胞や有毛細胞も確認できました。
作製されたミニ臓器は、難聴の治療薬探しに活用することができます。抗がん剤のシスプラチンの副作用として難聴がみられることがあります。このオルガノイドにシスプラチンを投与してみると、蝸牛神経の線維がばらばらになったり細胞が収縮したりしました。一方、こうした作用が、細胞分裂などを促す酵素の働きを阻害する化合物を投与すると緩和されることも確認しており、シスプラチンの副作用による難聴の治療法につながる可能性が示唆されました。
難聴の多くを占める感音性難聴は、内耳の障害が原因とされ、内耳にある蝸牛の神経細胞や、蝸牛の中の有毛細胞が傷ついたり、失われたりすることによって起こります。一度傷つくと再生せず、根本的な治療法はありません。今回の手法を用い、難聴の病態解析や、遺伝性などほかの原因による難聴に対する治療薬の研究にも応用されることが期待されます。
(2022年4月5日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)