労働市場の回復の遅れ

先進国の間で労働市場の回復度の差が鮮明となっています。求人数は、米国や英国で新型コロナウイルス流行前の1.6倍超に膨らみ、ドイツも1.2倍に達しています。急ピッチの経済再開で人手が追いつかず、賃金上昇でインフレも加速しています。しかし、日本の求人は依然としてコロナ前を下回っています。助成金で失業率の悪化を抑える危機対応策で雇用の安定を図ったことにより、却って回復の勢いを欠くことになっています。

労働需給の逼迫は、賃金の上昇圧力になります。OECDによれば、賃金は米国は米国がコロナ前に比べ12%、英国が10%高くなっています。求人増が米英ほどではないドイツも5%上昇しています。しかし、日本は戻りが鈍いままです。小売業や飲食店、医療・福祉の新規求人が回復せず、賃金も1%低下しており、物価上昇圧力も米欧ほどには高まっていません。

経済の回復スピードの違いも大きくなっています。GDPの水準は、米国やユーロ圏が既にコロナ前を上回るのに対し、日本は下回ったままです。経済が冷え込んでいる状況では、雇用もなかなか上向きません。日本はコロナ下で雇用の安定を重視する危機対応策をとってきました。仕事が減っても雇用を維持する企業向けに雇用調整助成金を出しています。これにより、低採算の企業や需要の乏しい産業に、人材が滞留してしまいました。米国や英国は景気悪化で失業者が増えやすくなっています。成長力の高い産業に人材が再配置されます。日本は再配置が起きにくい状況になってしまいました。
日本は長期雇用の慣行なども背景に、失業率が主要国で突出して低くなっています。新型コロナウイルス禍で景気が低迷した2020年で最も高かった10月でも、3.1%にとどまっています。米国は感染が急速に広がった2020年4月に14.7%まで急上昇しました。最近では3%台まで下がり、コロナ前の水準に迫っています。英国も2020年後半に5%台まで高まった後は低下傾向で、現在は3%台です。

(2022年4月15日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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