企業会計では、資産とみなされない社員のスキル、やる気などを数字で開示する動きが広がっています。デジタル時代の競争力の源泉は工場や店舗ではなく、革新的ビジネスを創造する人的資本という考え方からです。昭和の雰囲気が残る労働生産性には、人をコストとみて人件費を削るイメージがあります。そうではなく、人に投資して付加価値を伸ばしていくことが大切となります。
米ギャラップの2020年調査によれば、士気が高く熱意のある社員の割合は、米国が34%と世界で突出しています。失われた30年で確たる成長の針路を見失った日本は、世界最低レベルの5%に沈んでいます。社員エンゲージメントが世界最低レベルの日本は、最後尾から追いかけなければなりません。
どんなに完備した組織つくり、新しい手法を導入してみても、それを生かす人を得なければ、成果も上がらず、企業の使命も果たしていくことができません。岸田政権の新しい資本主義実現会議でも、形には残らない人への投資を評価する方法論を探っています。社員の価値を数字で表すことは、企業会計の古くて新しいテーマです。
米証券取引委員会は一足早く、企業に人的資本にかかわる情報を開示させる仕組みを整えています。企業のESG(環境・社会・企業統治)と株価の関係においては、将来の収益にダイレクトにつながるSが最重要とされています。人的資本の評価をめぐっては、仕事に対する熱意や満足度といった社員の内面が焦点のひとつです。人的資本の会計は、いずれも市場メカニズムを通じて企業と社会をつなげる重要指標に進化する可能性があります。
(2022年4月12日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)