日本では毎年10万人近くが乳がんを発症し、約1万5千人が亡くなります。治療の基本は手術ですが、微小転移は今の検査技術では検出できません。そのため、ホルモン剤や抗がん剤の薬物療法や放射線治療を組み合わせて、転移や再発を防ぐことが標準治療となっています。治療法が手術だけだった1973年には10年間の無再発生存率は30%程度でしたが、2005年には75%まで上がっています。
しかしリンパ節転移が4個以上あったり、がんが大きかったり、悪性度が高いタイプだった場合の再発率は決して低くありません。乳がん患者の70%以上はホルモン受容体が働いているルミナールと呼ばれるタイプです。ホルモン受容体陽性の乳がんは、手術から5年が過ぎても再発のリスクは継続します。ホルモン受容体陽性の乳がんには、これまで抗エストロゲン薬を中心としたホルモン剤が使用されてきました。近年、新たに使えるようになったのは、分子標的薬のベージニオです。ホルモン剤とともに、最長で2年間服用します。
ホルモン剤にベージニオを加えた患者は、ホルモン剤だけの患者に比べ、3年時点での再発率を32%も抑えることが確認されています。これを受け日本でも昨年暮れ、術後使用が追加承認されました。使用対象となる再発リスクの高い患者は、日本では年間7千~8千人と見積もられています。副作用としては、多くの患者が下痢が起きる他、間質性肺炎や静脈血栓塞栓症にも注意が必要です。高額療養費で補助を受けても、ベージニオの薬代だけで、患者の負担が月10万円を超える例もあります。この薬の使用により再発のリスクを減らすことができます。
(2022年4月23日 岐阜新聞)
(吉村 やすのり)