赤ちゃんポスト開設15年に憶う

熊本市の慈恵病院に赤ちゃんポストである「こうのとりのゆりかご」が開設されて15年が経過しました。赤ちゃんポストは2007年に設置され、2020年度までに159件の預け入れがあったとされています。2008年度が25件と最多で、以降は減少傾向にあります。2020年度は過去最少の4件でした。うち121人で実親らの居住地が判明していますが、熊本県内は13人で大半が県外です。自宅での孤立出産は83件にも上っています。
この赤ちゃんポストについては、様々な考え方があります。医師ら専門家が立ち会わない自宅などでの孤立出産の誘発につながることが危惧されています。また赤ちゃんが出自を知る権利が損なわれるなど様々な課題が指摘されています。安易な子捨ての場と揶揄する言葉も聞かれますが、母親は誰一人安易に考えて赤ちゃんを連れて来ているのではないと思います。生まれた子どもの命を助けたい、幸せになってほしいとの思いから、赤ちゃんポストを利用しているのではないでしょうか。
出自を知る権利については、最大限尊重しなければなりませんが、困難状況に置かれて匿名を撤回できない女性の存在があることも事実です。そうした女性を諭したり突き放したりすれば、赤ちゃんの遺棄や殺人といった事件につながりかねません。こうした事件を防ぐためにも、まず子どもの命を救うことが第一義と考えられます。女性が匿名で出産や預け入れを求めても、丁寧なやりとりをすれば多くが実名を教えてくれるケースも出てくることが予想されます。
病院はこれらの課題を受け、2019年に病院の担当者のみ身元を明かして出産する内密出産制度を導入しています。2022年1月、初事例となる10代の女性が、2021年末に出産したと発表しています。病院は、今後も赤ちゃんポストや内密出産を続けるとしています。病院以外に身元を明かさず出産する内密出産にも対応できる施設が、今後増えてゆくことが望まれます。
預けられた子どもは、その後児童相談所に保護されますが、どのような人生をたどるか、行政側の調査など検証が不足しています。このゆりかごは入り口にすぎず、大事なのはその後です。出自を知る権利が欠落しているからこそ、成育過程に心を尽くさないといけません。今後も自宅で孤立出産に追い込まれてしまう女性は後を絶たないと思われます。行政として、赤ちゃんの安全な出生とその後の健康、幸福になるための支援が不可欠です。現在の少子化状況下、行政の取り組みは待ったなしです。

(吉村 やすのり)

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