医療デジタル化の遅れ

マイナンバーカードを健康保険証として使うマイナ保険証の利用は、2021年10月に始まりました。普及を後押しするため、今年4月の診療報酬改定で新設されたのが、電子的保健医療情報活用加算です。顔認証付きカードリーダーを設置したり、オンライン環境を整えたりする費用を賄うため、医療機関なら初診時70円(再診時40円)、薬局なら薬の調剤で30円を月1回、診療報酬に上乗せします。その分、患者が払う費用も、3割負担なら21~9円増えるという不可解さが反発を招いています。
医療行為・サービスの価格は、原則国が決めます。高度で費用がかさむ医療行為は高額に設定します。マイナ保険証を使えば、過去に処方された薬や特定健診のデータなどを利用しやすくなります。医療機関の診察が効率化される利点もあるのに、手間や経費が増す面を重くみて報酬を加算しています。この理屈では、デジタル化を進めるほど医療費が膨らみかねません。
医療費は膨らむ一方なのに、デジタル化では世界に取り残されつつあります。OECDの2021年時点の資料によれば、政府支出に占める公的医療費の割合は、OECD加盟国など44カ国で2番目に高いのに、開業医など身近な医療を提供するプライマリケアを担う医療機関の電子カルテ導入割合は42%と、加盟国38カ国で4番目に低率です。
デジタル化は大切です。診療報酬への加算はあべこべな印象があります。窓口負担が増えれば、患者は使いたがらなくなってしまい、普及策が逆効果になってしまいます。

(2022年5月16日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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