事実婚とは、婚姻の意思を持って共同生活を送っていますが、婚姻届を自治体に提出していない状態を示します。届け出が存在しないため、事実婚世帯数の公的な数値はありません。
住民票には、双方の姓を維持しながら、世帯主との関係の欄に、夫(未届)、妻(未届)などと、事実婚であることを意思表示することができます。単なる同居ではなく、婚姻の意思を持ちながら同居していることを、対外的に示す意味があります。しかし、住民票で意思表示をしても、法律婚と同様の法的扱いを受けられるわけではありません。同様の扱いをすべきかどうかは、こうした住民票や生活実態などをもとに、行政や裁判所が個別の夫婦ごとに判断していくことになります。
事実婚と法律婚で最も違いが出るのが税制です。日本の税制は、徴税手続きがしやすいように、届け出に基づく法律婚を前提につくられています。そのため、事実婚カップルは税制上では夫婦ではないため、妻(夫)の年収が少ない場合に、他方の税負担を軽くする配偶者控除や配偶者特別控除が受けられません。相続時も民法で、法定相続人は配偶者と血族に限られています。法律上の配偶者ではない事実婚の妻(夫)は、法定相続人とは認められません。
法律婚の場合は、配偶者は上限1億6,000万円までか、法定相続分の2分の1までの遺産は相続税がかからず、受け取ることができます。しかし、事実婚の場合は、こうした配偶者に対する相続税の優遇措置はありません。その上、相続税では、法定相続人よりも2割増の額を納めなければなりません。
年金制度では、住民票などで事実上の夫婦であることを示せれば、事実婚の妻(夫)に対し、法律婚と同じ権利を認めています。遺族年金の受給や、保険料納付が不要な第3号被保険者の適用が可能です。
(2022年5月25日 読売新聞)
(吉村 やすのり)