政府は、10兆円規模の大学ファンドによる支援制度で、低迷する日本の大学の国際競争力の復活を狙っています。10兆円の基金をつくり、それを株式などで運用して、儲かった分を一部の大学に配ります。大学は、若手研究者の支援など研究環境を充実させるのに、そのお金を使うことができます。
日本の研究力は、国際的に見てどんどん低下しています。影響力の大きい論文数は、1996~1998年は世界で4位でした。2016~2018年は11位に下がっています。博士課程への進学者も、各国が増やす中で日本は減っています。一つの原因が、大学の資金力だと考えられています。英米の有名大学は、寄付をたくさん集めて数兆円規模の基金を持ち、運用益を大学の研究環境の整備などにあてています。一方、日本は文化の違いなどから寄付が集まらず、各大学の基金は少ない現状です。
政府は、世界トップレベルの研究成果を出す大学をつくることを目指しています。支援を受けられるのは、政府が国際卓越研究大学に認定した数校だけです。認定されるには、大学が自ら民間の資金を集めたり寄付を募ったりして、お金を増やしていくことなどが求められています。大学側も改革が必要となります。
支援を受けられる大学と受けられない大学の格差が広がってしまうことや、大学がお金儲けにつながる研究を重視して、それ以外の基礎研究がおろそかになってしまうことなどを心配し、反対している人もいます。一部の大学に優秀な人材を引き抜かれ、人材や研究資金が集中すれば、多くの大学の研究力が低下する恐れがあります。資金を得られやすい分野に研究が集中し、裾野が広い基礎研究の多様性が阻まれる恐れも指摘されています。
(2022年5月31日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)