厚生労働省が3日発表した2021年の人口動態統計によると、1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は1.30と6年連続で低下しました。出生率が下がる大きな要因として、若い世代の子どもを持ちたいという意欲が減退していることがあげられます。少子化に歯止めをかけるには、女性の賃金水準が低く、家庭のなかで家事・育児の負担を背負う状況を解消することが欠かせません。
出生動向基本調査によれば、未婚女性で結婚せず仕事を続けると答える人は増え続け、結婚しても子どもを持たずに仕事を続けるとあわせる25%を占めています。未婚女性の4人に1人が、出産する人生を想像できないと考えています。妻が30~34歳の夫婦が理想の子ども数を持たない理由として、子育てや教育にお金がかかりすぎると答えた例が8割に達しています。若い世代の雇用環境は悪化し、生まれた年が最近になるほど年収の水準が低くなっています。
男性は仕事、女性は家事・育児という古くからの性別役割分業も足枷となっています。日本の女性が家事・育児に割く時間は、男性の5.5倍にも達しています。在宅勤務が普及し、男性も家事・育児に参画しやすくなったはずですが、内閣府の2021年の調査では、家事・育児の時間が増えたと答えた割合は女性が44%で、男性の38%を上回っています。
子育て支援にかかる日本の家族関係社会支出は、GDP比で1.73%にとどまり、出生率が比較的高いスウェーデンの3.4%やフランスの2.88%に遠く及びません。十分な予算が割かれないまま、子育ての社会化が進まず、家庭の中で女性が負担を背負っています。それが女性がキャリアを形成できなかったり昇進が遅れたりすることにつながり、低賃金の要因となっています。正規、非正規と同じ雇用環境にあっても男女で賃金格差はあり、課長級、部長級など同じ役職でも格差は目立っています。
出生率が1.30を割り込む状態は、深刻な超少子化とされます。東北大学の子ども人口時計によると、子どもの減少率がこのまま続くとすると2966年10月5日に日本人の子どもは一人となってしまいます。女性の自立を支え、若い世代が安心して子育てできる社会につくりかえなければ、出生率の改善は永遠に望めません。
(2022年6月4日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)