女子生徒の理系進学への推進

OECDによれば、2019年に日本で大学などの高等教育機関に進学した学生のうち、STEM「科学・技術・工学・数学」分野に入学した女性の割合は、自然科学の27%と工学の16%の2分野で、比較可能な加盟国36カ国中で最低です。性別によって理系・文系などの知識配分の差があることそのものが、社会にとっても問題となり得ます。科学技術が人々の暮らしを支える現代社会では、研究開発に多様な視点や意見が取り入れられる必要があります。女性が研究に関わることで新しいイノベーションが生まれる可能性が広がります。
内閣府の調査によれば、特に母親の学歴等が進路選択に影響することが分かっています。女性保護者の最終学歴が文系の場合、女子生徒の進路意向は、理系、どちらかと言えば理系が約22%だった一方、母親が理系の場合は、理系、どちらかと言えば理系が約42%と、20ポイントもの違いがみられています。身近なロールモデルの有無が、女子生徒の進路に影響を及ぼすと考えられます。
ロールモデルの少なさのほかに、女子中高生の身近に潜む無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)があります。幼少期の頃から、学校や家庭、メディアなどにより、研究者になる人は男性、女性は理系科目が苦手というような偏った価値観が進路にも影響を与えています。アンコンシャス・バイアスに囚われず、進路を選択できるよう後押しすることが必要です。
受け入れ側も対応が急がれます。総務省の調査によれば、2020年度の日本の科学技術分野での女性研究者比率は17.5%です。男性研究者の比率との差は大きく、多数派の男性のキャリアが研究者のスタンダードとなっています。出産などを機にキャリアが途絶えてしまう女性研究者も多くなっています。一度研究者を辞めた女性たちが、特任という名で、非正規のような形で研究の現場で働き、雇用に不安を抱えている場合も多くみられます。女性研究者たちが内部から変革をしていくのは限度があり、国がさらにリアルな女性の声を聞いて推進していくべきです。

(2022年6月6日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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