総域的な少子化対策

少子化がもたらす社会問題は、技術革新や移民により解決できるものではありません。少子化の負の影響を減らすには、少子化自体を止めるしかありません。コロナ禍の影響もあり、2021年の合計特殊出生率は1.30と低下しています。政府は、希望出生率1.8を目標に少子化対策を推進してきましたが、その実現には厳しいものがあります。
出生率を回復させるには、個人・家庭の選択の自由を尊重した総域的な少子化対策を推進することにあります。そのためには、2点の優先的な取り組みが求められます。第1に現金給付の充実です。主要国に比べ日本の現金給付水準大幅に低くなっています。特に多くの子どもを望む夫婦が理想とする数の子どもをもうけられない最大の理由は、子育てや教育にかかる経済的負担の重さです。多子世帯を手厚く支えるように現金給付を拡充することが求められます。
日本は2017年時点で現金給付のGDP比が0.65%、現物給付が0.93%、税制が0.2%で、合計1.8%です。2020年時点では、現物給付のGDP比が1.3%に高まったことで、合計も2.1%に上昇しています。しかし、主要国と比較すると、現物給付の水準は英仏とほぼ同程度になっていますが、現金給付および現金給付と税制の合計については欧州主要国よりも大幅に低いままです。
第2に現物給付については、結婚・出生を総域的に支えるように充実させていくことが期待されます。未婚者に対し、初期キャリアの支援、結婚支援、結婚生活スタートの経済的支援が求められます。子育て期に正規雇用者で就業する人には、長時間労働の是正や仕事と家庭生活の調和の推進が重要です。非正規雇用者に対しては、取得可能な育休の普及、同一労働同一賃金の推進が大切です。専業主婦世帯など在宅で子育てする世帯には、育児の負担を軽減して孤立を防ぐ一時的または恒常的な保育支援が必要とされます。
少子化対策を拡充するにはその財源が必要になります。家族関係社会支出が多い国は、日本よりも国民負担率が高くなっています。それらの国では、一人ひとりの国民から税・社会保険料を集めて、それを現金給付・現物給付として子育て世帯に対し、彼らが負担した以上の分を支給する形になっています。少子化は日本全体の危機であり、少子化対策の推進により出生率を回復させることは国民全体の便益になります。それには幅広い国民がそのための費用を負担することが必要になります。

(2022年6月20日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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