日本は医師の開業に制限がなく、診療科も自由に掲げることができます。政府は、医学部の定員枠でしか医師数をコントロールできません。医療需要に応じて医療機関の数や診療科ごとの医師数を決められれば、医療人材を有効に活用できるのに、そうした仕組みもありません。英国では、国民医療制度が原則全ての医療提供を取り仕切っています。住民が選んだ家庭医が専属となり、幅広い病気を診ます。専門的治療が必要かは家庭医が判断します。コロナ禍でも家庭医がオンライン診療を拡充して対応しています。
日本医師会もかかりつけ医を持つように勧めていますが、英国の家庭医とは異なります。患者が自由に受診先を選べる半面、医師が責任を持って面倒をみる関係性も薄くなっています。英国型の制度を取り入れると、開業医は減収となる恐れがあり、日医の抵抗は強いものがあります。医療界でデジタル活用が遅れた背景にも、この開業医保護の発想があります。
国内の医師32万人のうち、11万人が診療所で働いています。3分の1を占める開業医へのガバナンスが弱く、コロナ対応も開業医の協力度で二極化しています。日本の医療は税金と保険料で賄われる公的システムなのに、開業医を中心とする利害関係との調整に明け暮れて改革は進んでいません。
(2022年6月21日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)