子どもを守るという社会の覚悟

内閣府が日本、フランス、ドイツ、スウェーデンの4カ国で実施した少子化に関する国際調査結果によれば、子どもを生み育てやすい国だと思うかという質問に、日本でそう思うと答えた人は4割弱にとどまっています。これに対し仏独では8割前後、スウェーデンでは97%がそう思うと答えています。年々、育てやすいと思う人が減少しています。育児休業制度をはじめ各種の子育て支援策の導入など、少子化対策はそれなりに進んできましたが、日本社会で子育ての安心感を得られていません。
日本の子育て支援策で足りないものは、第1に制度が細切れで包括的な子ども若者支援体系となっていないこと、第2に自治体間の制度充実の格差、第3に制度利用の格差です。これまでの施策はパッチワーク的であり全体像が見えにくくなっています。
第1の子育て支援策は、妊娠期から青年期まで全てのライフステージを通して、現金給付と現物給付を効果的に組み合わせて包括的に実施する必要があります。全体像が分かりにくく、利用者自身がどんな制度があり、どの段階で制度適用となるのかを情報収集せねばなりません。また世帯年収などで利用・適用の可否が決まり、多子世帯への支援も弱く、安定的な財源に裏打ちされた包括的で一元的な枠組みになっていません。
第2に子育て支援策の自治体間格差があることが問題となっています。妊娠期のケアに始まり、出産、産後ケア、乳幼児期、就学前児童の保育や教育、放課後児童育成などから若者支援までの現物給付は主に自治体が担っています。国がモデル事業や良い事例を紹介しても、自治体がそれなりの財源を確保して人手もかけないと、子どもや若者が安心して育ち自立していく環境は整備されません。
第3に育児休業制度にみられるように、正規と非正規雇用者では制度利用に格差があります。さらに雇用されることが前提で組み立てられている社会保障制度から外れるフリーランスなど、多様な働き方の人が増えています。保障のない不安定な就労では結婚や出産は難しくなります。様々な働き方やライフコースにかかわらず安心して出産・子育てできる制度の再設計が必要です。
コロナで子育て世帯に大きな負荷がかかったことを見て、若い世代は、子どもを持つことはリスクになるととらえるようになっています。何があっても子どもの健やかな育ちや若者を守るという社会の覚悟を示さないと若い世代は安心して出産・子育てできません。こども家庭庁は、包括的な子育て支援策の拡充・体系化だけでなく、子どもを生み育てやすい社会を作るという強いメッセージを発信することが大切です。今こそ、子どもへの投資は未来への投資だという私たちの覚悟が試されています。

(2022年6月21日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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