高齢者に偏った社会保障制度の転換を

日本の少子化が想定を超える速さで進んでいます。1年間に生まれる子どもの数は80万人割れが迫り、戦後のベビーブームから3分の1に減っています。しかし子育て支援に関する政府支出は、GDPのわずか1.6%にすぎない状況です。社会保障給付が高齢世代に偏り、海外と比べても少子化対策は貧弱なものとなっています。
出生数は過去最少、婚姻数は戦後最少となっています。与野党とも公約に少子化対策を前面に出していますが、いずれも既存の政策の延長で新味は乏しく、財源論も本格化していません。給付などの規模が小さすぎます。経済不安の強い若年層を動かすため、出産一時金倍増など驚くような打ち出しが必要です。
欧州各国は巨額の予算を割いています。OECDによると、GDPに占める家族関係予算は、デンマークやスウェーデンが3.4%、英国は3.2%です。2.9%のフランスは、育児休業中の賃金保障や不妊治療の補助拡充など大規模な対策で出生率を回復させています。2%に満たない日本は、OECD加盟国平均の2.1%にもほど遠く、大きく見劣りしています。
一方で高齢者向け給付は増え続けてきました。国立社会保障・人口問題研究所の統計によれば、社会保障給付に占める高齢者の割合は2019年度に66.2%に達します。これからは若者や子どもたちを重視する政策をとっていくというメッセージを打ち出し、方針を転換する必要があります。少子化は確実に今後も続き、日本の社会・経済の活力を奪います。その現実を見据えた議論が欠かせません。

(2022年6月28日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

カテゴリー: what's new   パーマリンク

コメントは受け付けていません。