慶應義塾大学のグループが、大腸がんが抗がん剤を耐えしのぎ、再発につながるメカニズムの一端を解明しています。がんをつくり出すがん幹細胞が増殖を停止する休眠状態になり、抗がん剤の効果がなくなった後に休眠から目覚め、再び増殖していることがわかりました。
(2022年7月7日 Nature)
大腸がん患者のがん組織を、体外で培養したミニ大腸がんマウスの背中に移植し、がん幹細胞だけが光るようにして観察しています。がん幹細胞のうち約2割は休眠状態でしたが、抗がん剤を投与すると、通常のがん幹細胞はほぼ死滅したのに対し、休眠状態のものは半分以上が生き残っていました。休眠状態のがん幹細胞は、細胞の足場の基底膜に強くしがみついており、抗がん剤を耐えた後、この接着をゆるめることで、細胞内の分子であるYAPを活性化させて休眠から目覚め、増え始めていることが分かりました。
大腸がんは、日本で最も患者が多いがんで、がん細胞が増殖する特徴を逆手にとり、よく増える細胞を殺す抗がん剤を使った化学療法が行われますが、再発が起きます。再発の原因の一つとして、がん幹細胞が抗がん剤治療を耐え抜くことがあげられてきました。がん幹細胞が再発に関わることは想定されていましたが、生体内で休眠状態で生き残ることが初めて実証できました。抗がん剤でがんを小さくして、眠ったままにすることで再発を遅らせるような治療法につながる可能性が出てきます。
(2022年7月12日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)