人への投資の必要性

日本の主要企業が、社員のリスキリング(学び直し)で連携する協議会を8月に設立するとしています。国内外の投資家が企業価値を判断する際、人への投資の実績に着目し始めています。日本は人への投資で米欧に大きく後れを取っています。厚生労働省の推計によれば、GDPに占める企業の能力開発費の割合は2010~2014年の平均で0.1%に過ぎません。米国や欧州は1990年代から1~2%で推移しています。
リスキリングは、企業や社員の成長力向上に欠かせません。デジタル技術などを集中的に学び直し、企業内でイノベーションを起こしたり、成長分野に転職したりしやすくする必要があります。企業が成果を適切に評価し、処遇することも求められています。社員が相互に兼業・副業する仕組みを設けたり、共同で学び直しの場を提供したりすることを検討し、人への投資の拡大につなげることが大切です。OECDによれば、仕事に関連するリスキリングへ参加する人の割合は、日本で35%と、50%前後の米国や英国に比べて低くなっています。
政府は企業に対し、従業員の育成費用や育児休業取得率、男女の賃金格差といった多様性を示す指標など、人への投資にかかわる経営情報を開示するよう求める方針です。企業は具体的な数値目標や事例の公表を迫られます。今後、わが国の企業も人的資本への投資の必要性を考慮すべきです。

(2022年7月25日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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