2020年4月からキャッチアップ接種は、3年間の時限付きで実施されます。キャッチアップ接種の対象者は、誕生日が1997年4月2日~2006年4月1日の女性の中で、小学校6年から高校1年頃に、HPVワクチンの接種の機会を逃した女性です。誕生日が2006年4月2日~2008年4月1日の女性についても、定期接種対象から外れてしまう可能性があるので、順次2023年、2024年にキャッチアップ接種が可能となります。これらの女性については、無料でHPVワクチン(2価または4価)を3回接種できます。
HPVワクチンの有効性が確実に発揮されるのは、性交未経験者です。しかし、性交経験があっても、HPV16、HPV18型に感染していない女性では、将来のHPV感染を予防できます。キャッチアップ接種世代の多くは性交経験があり、何かしらのHPVに感染していると考える方が妥当です。しかし、キャッチアップ接種世代の日本人女性の場合、HPV16またはHPV18型に感染しているのは約3割と言われています。HPV16またはHPV18型DNA陽性者が約1割、残りはHPV16またはHPV18型抗体陽性者です。海外の第Ⅲ相臨床試験に参加したキャッチアップ接種対象者の約7割は、HPV16またはHPV18型にナイーブ(曝されたことがない、未感染女性)です。このような女性においては、キャッチアップ接種によって、将来のHPV16、HPV18型感染リスクを回避するメリットがあります。
HPVに感染っしても多くは自然排除されると記載されます。しかし、正確には自然排除ではなく、HPV検査が陰性化するという意味です。HPV検査には陽性・陰性を分けるカットオフ値があり、それよりもウイルス量が下がると陰性となります。HPV検査が陰性化しただけであって、自然排除された証拠はありません。
HPVワクチンは、HPVに対する中和抗体を誘導することによって効果が得られる感染予防ワクチンであって、新型コロナワクチンのように細胞性免疫も同時に誘導して重症化リスクを下げるものではありません。HPV16/18既感染者や細胞診異常がある患者に対しては、治療的効果やがん発症予防効果は証明されていません。HPV16/18既感染者(抗体陽性者)へのHPVワクチン接種によって、CIN発症リスクが下がったという研究はありますが、浸潤がんの予防効果ではありません。性交経験が始まっていると推定されるキャッチアップ接種世代へのHPVワクチン接種は、定期接種世代に比べると、がん予防効果は低いと言わざるを得ません。
しかし、26歳までのキャッチアップ接種世代には、HPV16、18については、DNA陰性かつ抗体陰性の女性が、この世代には約7割存在し、それらの女性にとって、HPVワクチンを接種しておくことは、未接種と比べ、有意な子宮頸がんの発症リスク減少につながります。キャッチアップ接種の期間は3年間ですが、年齢が高くなるとナイーブ集団の率が低くなります。そのためワクチン効果が減少することにより、接種が早ければ早いほど有効であると考えられます。キャッチアップ接種では、27歳以上の女性についてはHPVワクチンの確固たる有効性のエビデンスが乏しいことから、積極的勧奨が差し控えとなった2013年当時に16歳の1997年度生まれの女性が、27歳を迎える2024年度までの時限付きにしたと考えられます。
(日産婦医会報 令和4年7月1日号)
(吉村 やすのり)