厚生労働省によれば、全国の児童相談所が2021年度に対応した件数は、20万7,659件と31年連続で増え、過去最多を更新しています。子どもの面前での夫婦間のドメスティックバイオレンス(DV)が、面前DVとして心理的虐待と捉えられるようになったことが背景にあります。児童相談所の人手不足の解消や通告制度の効率化が急務となっています。
この10年程で児童相談所の相談の内容は大きく変わっています。2021年度の虐待の相談件数の6割は心理的虐待が占め、殴る蹴るといった身体的虐待の23.7%をはるかにしのいでいます。2010年度は心理的虐待が26.7%、身体的虐待が38.2%で、直接的な暴力による虐待のほうが多くみられました。2021年に警察が通告した児童虐待の74%は、心理的虐待で8万304件に上り、うち面前DVは4万5,972件と6割近くなっています。面前DVは10年近くで8倍以上に増えています。
児童相談所の人手不足は深刻です。充分なスキルのある人材の確保は困難です。深刻な虐待では、親に対応を拒否されても介入しなければならない仕事の難しさも伴います。職員には親の嘘を見抜く観察力や柔軟な対応といった資質やスキルが求められます。
海外では、児童虐待への対応が保護から予防への流れになっています。先進的なモデルは北欧にあります。フィンランドでは、妊娠中から出産や子育て支援の地域拠点ネウボラで、きめ細かに家庭の事情や相談に対応しています。警察や司法も積極的に介入する米国でも、北欧型の早期支援モデルの重要性が認識され始めています。
(2022年10月20日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)