事実婚における体外受精の実施

日本産科婦人科学会は、「体外受精・胚移植に関する見解」において、その対象となる被実施者に関する項目にある「婚姻しており」との表現につき検討してきました。

「婚姻」という言葉は本来法律用語であり、法的に夫婦の関係にあるということを意味するものです。学会が昭和58年に公表した最初の「体外受精・胚移植に関する見解」では、当時の夫婦関係に関係する社会情勢、嫡出子・非嫡出子の法律上の問題、体外受精・胚移植に対する社会的認知度を考え、被実施者の戸籍などにより婚姻を確認することが望ましいとしておりました。その後、体外受精・胚移植の一般化に伴い、平成18年に見解を改定した際には、「婚姻」という表現は残すものの、戸籍上の婚姻を確認できる文書の提出については削除されました。臨床の現場では現実的に医療従事者が不妊治療を求めてこられる方に対し、法的な意味での“婚姻”の厳密な確認を行うことには困難を伴うこと、またそこまで踏み込んだ問診をすることは、個人のプライバシーの尊重と不整合を生ずる恐れがあることなどが配慮されたものです。

その後8年余りが経過する中で、多くの医療施設では既に法的婚姻の確認は行わなくなっています。また、社会情勢の変化により夫婦のあり方に多様性が増した結果、医療現場ではいわゆる社会通念上の夫婦においても、不妊治療を受ける権利を尊重しなければならないのも事実です。「夫婦」という言葉を規定するのは国や社会全体と思われますが、学会が公表する見解においては、被実施者に関して「夫婦」である必要性を残すことにより、「婚姻している」とする表現を削除しても本医療は適切に実施できるものと判断されます。

これによりクライエントカップルが夫婦であると言明すれば、法的な婚姻関係がなくても体外受精が実施できることになります。

(吉村 やすのり)

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