かかりつけ医は、一般に健康に関することを何でも相談でき、自ら患者を治療するだけでなく、必要に応じて専門医や介護サービスにつなぐ医師のことです。日本では、現在かかりつけ医の機能を、身近な地域における日常的な医療の提供や健康管理に関する相談等を行う医療機関の機能として、厚生労働大臣が定めるものと規定していますが、明確な制度はなく実態も曖昧なままです。
コロナ禍では、患者が医療機関から診療拒否に遭い、適切な医療を受けられない事例が相次いで起こりました。政府は、かかりつけ医を通じて国民それぞれの医療に責任を負う体制づくりを目指します。多様な病気やケガに対応する医師をすべての国民向けに直ちに確保するのは難しいとの見方があり、登録を義務化せず、希望者から広げる流れを想定しています。
日本は、診療科ごとに専門性を高める人材育成を重視してきました。このため、英国の家庭医と呼ばれる医師のように、患者の病気や怪我を総合的にチェックし、必要に応じて専門的な医療機関を紹介する人材を急に育成するのは難しいとの見方があります。
日本医師会は、英国のようにかかりつけ医を事前に登録する制度に反対しおり、患者が医療サービスを受けられない事態を防ぐ方策として、地域の医療機関同士の連携を強化するという対案を示しています。健康保険組合連合会は、任意の登録制の創設を要望しています。患者の多様なニーズに応える能力や、必要に応じて専門医療機関などと協力できる機能を持つ医師を第三者がかかりつけ医として認定することを想定しています。財務省は、かかりつけ医の要件を法制上明確にし、希望者が自分のかかりつけ医を事前に登録する制度の導入を求めています。
登録が進まなければ、新型コロナウイルス禍で相次いだ診療拒否が繰り返される恐れもあります。法制化や医師にとって登録のインセンティブになる診療報酬の増額など、かかりつけ医を広げる仕組みづくりが大切となってきます。
(2022年11月11日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)