子を産んだ女性の所得が減る現象は、母の罰(マザーフッド・ペナルティー)と呼ばれています。出産を機に退職や時短勤務を選び、下がった給与は長期に回復しません。出産を躊躇させるのには充分です。米国で出産5年後の母親の収入は34%減少しますが、ドイツや日本は同6割減とさらに深刻です。夫が働き妻が子育てする役割分担意識や、子が3歳になるまで母親が育てるべきという3歳児神話も根強いものがあります。
低出生率が定着していたドイツは変わりつつあります。一時1.2台まで落ち込んだ合計特殊出生率は、2021年に1.58と50年前の水準に回復しています。新型コロナウイルス禍からの反動増もありましたが、出生数も約80万人と24年ぶりの多さです。日本の2021年の出生数は81万1,622人とコロナ前から5万人減り、2022年は初の80万人割れと推計されています。
子どもかキャリアかの2択を迫る慣習は、深刻な少子化を招きました。ドイツ政府が2000年代以降に取り組んだのは、父親は仕事、母親は家庭という文化にメスを入れることでした。重視したのは、母親の早期復職と父親の育休取得の同時促進でした。2015年生まれの子の父親の育休取得率は、35.8%と過去最高となっています。
出生率低下に悩む多くの国が育児手当を拡充しています。しかし、手当だけでは出生率は上昇しません。出生率を上げるには、育児手当よりも、女性の育児負担を減らす保育サービスなどの方が、3倍の費用対効果があるとされています。母親ばかり重荷を背負う社会では、女性は出産に後ろ向きになってしまいます。出生率が高い国ほど男性の育児参加率が高くなっています。
(2022年11月23日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)