日本の睡眠不足が国力をむしばんでいるとされています。社員の睡眠時間の多寡で、企業の利益率に2ポイントの差が生じるという研究結果が出ています。睡眠時間が、米欧中など主要国平均より1時間近く短いことや、睡眠の質の低さが、パワハラやミスの原因との指摘もあります。睡眠不足を個人の問題と捉えず、欧米のように社会全体の課題として解決する必要があります。
仏ヘルスケアスタートアップのウィジングスらの睡眠時間についての調査によれば、2020年の日本人の平均睡眠時間は6時間22分と14カ国中最下位でした。オランダのフィリップスの2021年の調査でも、日本で睡眠に満足している人の割合が29%と低く、13カ国の対象国で最下位でした。中国の57%やインドの67%を大幅に下回っています。
かつての日本では、受験勉強期間に平均4時間睡眠なら合格し、5時間睡眠なら落第することを表した四当五落という言葉が流行しました。しかし世界の研究では、むしろ短い睡眠時間は集中力を妨げ、逆効果になるとの見方が多くなっています。睡眠時間が慢性的に足らず、ミスを誘発する状態は睡眠負債と呼ばれています。
日本の睡眠負債の悪影響は個人のレベルを超えています。日本生産性本部によると、2020年の日本の就業者1人あたりの労働生産性は、7万8,655ドルと38カ国中28位と低く、主要7カ国(G7)でみれば最下位になっています。日本経済新聞社などの調査によれば、社員の睡眠時間が長い上位20%の企業と下位20%の企業で、売上高経常利益率に3.7ポイントの差が見られています。睡眠以外の要素を統計的に除外して算出しても、1.8~2.0ポイントの差が生じています。
2020年以降、新型コロナウイルスの感染拡大で在宅勤務の導入が広がり、通勤が減り、睡眠に充てられる時間が増えると期待されました。しかし、新たな問題として動画配信コンテンツ視聴やオンライン会議など、デジタル化の弊害が浮上し、2021年と2022年の1日あたりのメディア総接触時間は、コロナ前から30~40分伸びています。勤務時間とそれ以外の時間のメリハリがなくなったことも影響しています。睡眠時間を個人の問題だけに片づけるのは正しくなく、企業や政府としての対策が必要になります。
(2022年10月24日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)