自然資本の保護は、ESG(環境・社会・企業統治)投資で温暖化ガス抑制に続く注目テーマです。自然や生態系の保護に力を入れる企業に投資するファンドが増えています。森林保護で温暖化ガスの吸収源を確保し、自然災害や食料問題の改善につなげます。
投資マネーが集まる背景に、自然資本に対する認識の高まりがあります。自然資本は、社会や企業に対して食料や水、鉱物資源、石油などを提供しています。これらの機能を保護し、回復することは、未来の人類の富を守ることになるとの考え方です。また気候変動と裏表の関係にあり、温暖化ガスの吸収や気候変動による自然災害の軽減にもつながります。これまでの気候変動対策は温暖化ガスの排出抑制が中心であり、自然資本は手薄でした。
温暖化ガスの一部は陸地の森林や土壌や、海洋の藻などが吸収します。排出量が増える一方で、自然破壊によって吸収力も減っており、温暖化ガスが大気中に残り続けています。自然資本による吸収量を高めれば、気温上昇を抑えられます。近年は高温を原因とした山火事や、集中豪雨による大規模な洪水が発生しています。国連は、自然資本の保護・回復には、2030年までに今の年1,330億ドルから4,000億ドルと3倍に増やす必要があると試算しています。
自然資本保護の機運は高まっています。国連環境計画・金融イニシアチブなどでつくる自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)も、2023年9月を目途に自然環境の破壊が企業経営に及ぼすリスクなどの開示指標を公表する見込みです。世界銀行グループの気候投資資金は、途上国の生態系保護に3.5億ドル(約500億円)を提供するとしています。政府や機関の取り組みが民間マネーを呼び込み、温暖化ガス排出削減と両輪で、気候変動対策を加速できるか注目されています。
(2022年11月26日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)